証言など次の世代へ 藤沼湖決壊の記録誌を橋本市長に報告

文化防災

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    被災者の証言などをまとめた記録誌
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    記録誌を市に寄贈する柏村委員長(左から2番め)

 東日本大震災で決壊し8人が犠牲(1人行方不明)となった藤沼湖決壊事故被災者23組28人の証言や当時の写真などを編纂した記録誌「あの日を忘れない~そして語り継ぐ未来へ」が発刊し、編集した藤沼湖決壊による慰霊碑建立実行委員会(柏村國博委員長)は9日、市役所で橋本克也市長に出版報告し、市に1850冊を寄贈した。
 震災から10年となる昨年3月に滝防災公園に建立した慰霊碑の計画とともに、当時の記憶を記録として後世に継承するため3年がかりで計画を進めた。
 柏村委員長、森清道被災者の会長(当時)らを中心に被災者23組28人から貴重な証言を集め、当時の写真や新聞記事、藤沼ダム再建への経緯や決壊メカニズム、全国から寄せられた支援の輪、湖底から発見した奇跡のアジサイなど掲載した。
 記録誌は濁流が家屋や乗用車を飲み込む様子、決壊後の藤沼湖、泥や雑木にまみれた住宅地の写真と、「押し寄せる濁流が津波のように住宅をのみ込んで暴れまくっていた」などの証言とともに生々しく伝える。
 実行委員会は記録誌を3500冊出版し、長沼地域の町内会加入全世帯に1411冊、市内全小中学校に260冊、全公民館に125冊、市役所に30冊、長沼市民サービスセンターに24冊を配布するため市へ計1850冊を寄贈した。
 報告には柏村委員長、事務局の森元被災者の会長、委員の榊原茂夫さん、顧問の加藤和記大震災と藤沼湖の記憶をつなぐつどい実行委員長が訪れた。
 柏村委員長は「記録を集め、写真と証言を聞き背中がザワッとし、決壊の記憶を記録にする意義を改めて感じた」と話した。資料提供者に記録誌を届け「発刊してくれたことはありがたいが、いつ(記録誌)を開いて見られるかわからない」と返答があったとも報告し、「つらい記憶を再びよびおこしてしまうのではとの葛藤もあった」と複雑な心境も明かした。
 今後も震災と藤沼湖決壊を知らない世代にも記憶を受け継ぐための活動を続け、記録誌を県内全市町村や県知事、県選出国会議員らにも寄贈し後世への教訓にしてほしいとの考えを示している。
 藤沼湖決壊事故の犠牲者を悼む「大震災と藤沼湖の記憶をつなぐつどい」は、3月6日午前10時から滝防災公園で開かれる。
 平成23年3月11日に決壊した藤沼湖は農業用ため池として昭和24年に竣工し、最大150万㌧の貯水が下流850㌶の農地に水を供給してきた。東日本大震災で震度6強の強烈な揺れが本堤と副堤を襲い決壊、貯水と堤体盛土が周囲の山肌や雑木を巻き込みながら簀の子川に流入し、滝や長沼地区の22戸を流出・家屋破壊、水田・畑90㌶に土砂流入、寺前橋などを押し流した。
 再建工事は平成25年に着手し、平成29年1月に試験湛水を開始して竣工、現在は“須賀川の奥座敷”の愛称で市内外から多くの観光客が自然公園に足を運んでいる。