火曜コラム(紙面掲載 2026年10月6日)

三浦 純一


「減らす」から「足す」へ 高齢期の食卓

 年齢を重ねても、健康の合言葉は「食べ過ぎに注意」だと思ってはいないでしょうか。もちろん生活習慣病への配慮は欠かせません。ですが、七十代を迎える頃からは、体重が自然に落ちることを単純には喜べなくなります。減っているのが脂肪ではなく、体を支える筋肉かもしれないからです。
 加齢によって心身の力が弱まり、介護が必要になる手前の状態を「フレイル」といいます。予防の要は、食事、運動、人とのつながりです。なかでも食事は毎日の土台です。中年期までの健康法が余分なものを控える「引き算」だとすれば、高齢期には必要な栄養を補う「足し算」への発想転換が必要です。
 筋肉の材料となるのは、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などに含まれるたんぱく質です。ただし、一度にまとめて食べればよいわけではありません。朝のパンに卵やヨーグルトを添えます。昼のうどんに鶏肉や油揚げを加えます。夕食に豆腐を一品置きます。三度の食事に少しずつ分ければ、胃への負担も抑えやすくなります。たんぱく質の利用を助けるビタミンB6を含む魚やバナナ、野菜なども組み合わせたいものです。
 骨折を防ぐ食卓にも「チームプレー」があります。骨の材料となるカルシウムに加え、その吸収を助けるビタミンD、骨づくりに関わるビタミンKを一緒に取ります。例えば、鮭とキノコの料理に青菜を添え、別の食事で牛乳や小魚、納豆を選びます。特別な健康食品に頼らなくても、身近な食材で十分に工夫できます。
 毎食、満点を目指す必要はありません。昼が麺だけになったら、夜に卵や魚を加えます。平日に品数が少なければ、週末に整えます。食欲が落ちた日は、酢やショウガ、大葉などで香りや酸味を利かせてもよいでしょう。調理が負担なら、総菜や缶詰、冷凍食品も立派な味方です。「手作りでなければ」という思い込みが、食べる機会そのものを減らしてしまっては本末転倒です。
 もう一つ忘れたくないのは、誰かと食べる力です。家族や友人との会話は食欲を呼び、孤食で単調になりがちな献立を豊かにします。地域の食事会に出向くことも、栄養と社会参加を同時に満たす一歩になります。
 フレイル予防は、大がかりな改革ではありません。みそ汁に豆腐を足す、おやつを菓子からヨーグルトやバナナに替える。そんな小さな選択の積み重ねです。体重減少や食欲不振が続くときは、自己判断せず医師や管理栄養士に相談しましょう。「痩せる」ことだけを健康の物差しにせず、食べることを明日も自分らしく動くための備えと考えます。今日の食卓に加える一品が、将来の自立を支える一本の柱になります。

うつみね診療所 所長

三浦 純一

うつみね診療所長 元公立岩瀬病院長

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