震災特別連載 3・11東日本大震災 歩みつづけて vol 11


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子どもたちを守る

 「明日、何があるかわからない。だから自分を信じて、今できることに全力で取り組む姿勢を大切にしてほしい」。震災で甚大な被害を受け、それでも子どもたちに安全な環境と学習の機会を提供するため奔走した当時の須賀川一小校長である八木沼智惠子さんの言葉だ。

 地震が起きたのは帰りの会が始まろうかという時間だった。校内放送も不通となる中、教員は教室を回って誘導し、誰一人ケガすることなく校庭に避難できた。「避難した児童を整列させるとき、壊れた校舎も崩れた校庭も見せたくなくて、どこを向けばいいか迷った」と八木沼さんは思い出す。電話が通じなかったが、保護者は自主的に学校に集まり、午後6時半過ぎには全員を引き渡すことができた。そうして残ったのは、「これからどうすれば」という大きな問題だった。

 「6年生が次に進んでいくため、卒業式をしてあげたい」と3月末に須賀川一中の音楽室で児童と保護者のみ出席の式を行った。

 次年度は3年以下が須賀川二小、4年以上が須賀川一中で始業式を迎えた。体の小さな低学年に中学校の施設は負担が大きいと配慮したためだった。保護者に対し、八木沼さんは「子どもたちの心を支え、登下校時は安全確保に協力してほしい」と呼びかけた。すると保護者や地域住民は自身も被災者にも関わらず率先して通学路に立ち、協力体制ができあがった。

 教員らはできる限りいつもどおりの学校生活を送ってもらえるよう、場所や方法を工夫し桜水音楽祭や運動会も実現させた。

 二小校舎で1年生を迎える会を企画した際には、「自分が一小のことを紹介したい」とほとんどの上級生が手を上げ、通えない母校への思いの強さを示した。

 今年創立150年を迎える同校で、現在も多くの児童が元気いっぱいに学んでいる。震災という悲劇は、しかし人々の思いやりや使命感、行動があればどんな困難も乗り越えられると子どもたちに示す出来事にもなった。