須賀川・岩瀬から世界へ―― ②阿部弘輝選手への独自インタビュー(令和3年10月15日掲載)


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パリに向けレベルアップ目指す

(令和3年8月30日 ZOOMにてインタビュー)

――この1年を振り返って
大学から引きずっていた故障がちょっと長引いてしまって、昨年は思うような調子ではありませんでした。当初、東京オリンピックを目指してやっていましたが、現実的には厳しかったので、ある意味調整の年というか、自分を客観的に見つめ直し、色々なことにチャレンジする1年にしようと頭を切り換えました。
この1年で滅多にできない経験などもしたので、それらを分析し、次につなげる準備期間になったと思います。また今後社会人としてやっていくための目標も定まり、自分のレベルの現状値などを見つめ直すこともできました。将来的には必要な1年だったと思える時間になったのではないかと思います。

――実業団入りしてプラスになったこと
大学より自由度が増すチームに入ったので、競技に対し何が必要で何が足りないかといった分析をよりしっかりやるようになりました。大学時代は目の前のことだけ頑張る状態でしたが、社会人になって「今自分がすべきことはなんなのか」という目標を置いて、それに向けた行動を緻密に計画して実行できているので、そこが大学時代と大きく違うと思います。

――実業団チーム内での刺激
トップ選手の集まる中での練習は、競技に対する意識レベルの高さを痛感しています。練習の強度、量とも、大学よりレベルアップしている選手が周りにいます。ただ、周りを意識しすぎると自分のペースをつかめなくなってしまうので、その強い刺激は別のところに置いておいて、まずは自分のペースをしっかり持ってしっかり練習するというのは意識しています。

――今後の目標
これまで主体としていた1万㍍を去年から封印していましたが、今年秋から来年にかけて再びメインに据えて走ります。まずは今年中に1万㍍、5000㍍の自己ベストを更新したいです。そうすれば、さらに見えてくるものもあると思っています。来年は世界選手権の選考もあるので、出場できるようしっかりやっていきたいです。

――自己ベスト更新に向け
僕は長い距離を走っていると体勢がたまに崩れてしまうときがあるので、それを即座に修正できる動きづくりを今少しずつ始めています。そうしたところを丁寧に積み重ねることで、試合の時に調子の良し悪しにかかわらずピーキングに持っていけると思っています。

――調子が良すぎてもダメ?
調子が良すぎると、無駄なときにガンガン攻めてしまったり、楽な動きで走らないといけないのに余計な動きが入ったり。思った以上に体が動いてしまうため、スピードやペースが上がりすぎてコントロールが難しくなってきてしまうこともあります。練習の時も、練習をやりすぎてしまい、後からダメージを受けたり。だから調子が良すぎるときはしっかりコントロールを意識しないとダメだと感じます。そこは自分の課題でもあると感じるので、調子が良いからこそ自分を客観的に観て、「練習はここまでにしよう」など注意して取り組んでいます。

――長期的な目標は?
2024年パリオリンピックのトラック種目出場が一番の目標です。
最低限、1万㍍27分10秒前半のタイムを持っていないと勝負するのが難しいと感じています。少なくともそこまでは引き上げて、スタートラインに立ちたいです。現状からしたら高い目標ですが、日々の練習もパリを見据え、1年、2年、3年でレベルアップできるように調整しています。一つ一つ、1年1年つぶしていければ不可能ではないと思うので、実現できるよう頑張りたいです。
東京オリンピックは自宅のテレビで観ました。相澤選手をすごい応援していましたが、自分が出たらどう戦えるか、という気持ちも強かったです。
日本トップの相澤選手があの舞台で戦って、彼自身も悔しい思いをしたように、自分も世界とのレベル差を痛感する大会でした。ラストのラップタイムをみるとスピードのレベルの違いもあり、ペース変化も経験値が必要だと感じたので、まずはパリに向け、ペース変化の激しい世界選手権などのレースを経験する必要性を実感しました。

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――全国で活躍できる選手とそうでない選手の違いって何ですか
僕も中学生の頃は、全中標準記録を0・数秒で逃してしまったのですが、そのときなぜ自分は全中に行けなかったのかと考えました。そうして、当時は陸上に懸ける思い、覚悟が足りていなかったからだと思いました。高校でインターハイに出たときは「絶対に出場して結果を残すんだ」という強い気持ちで目標を実現しました。
陸上に限らず色々な競技で言えることですが、心技体の「心」が一番最初にくるので、まずは「心」が全国出場できるかどうかを分けると思います。後は例えば練習の計画性、指導者とのディスカッションなどを通して技術を磨くこと。体力はケガなどあればしっかり治療するなどリカバリーし、継続的な練習ができれば身に付いてきます。
この心技体のサイクルが重なっている選手が全国に行って活躍できると思います。もしまだ全国に手が届かないなら、何が欠けているか見つめ直す必要があります。当たり前のことをコツコツできることが、簡単そうに見えて一番難しいです。

――「心」を鍛えるためには
ライバルのことを考えるのが一番良いんじゃないかと思います。「身近なライバルはしっかりやっていて、自分は何をしているんだ」と自分に喝を入れるのが、手っ取り早い解決策ではないかと。でも逆に、執着しすぎてそれが重荷になって自分を苦しめてしまう選手もいます。特に中学生はそうした心の課題を自分だけで解決するのは難しいので。だから(特定の誰かに対してではなく)、「負けたくない」という気持ちだけで、それ以外何も考えず動いてもいいです。それだけでも何か変わるきっかけにもなると思います。

――調子が悪いときのアドバイス
調子が悪いとどうしても焦る気持ちが先走って、周りが見えないときもあります。そんなときに限ってライバルは結果を出したりして、精神的に苦しい部分もあると思います。でも、どうしたって自分は自分で、人と比べても何も始まりません。しっかり練習など継続して積み重ねることで、自分の調子が良くなる波を信じてやっていくしかありません。あとは人に惑わされず自分のペースで焦らずコツコツ練習することが一番の対処法になると思います。

――練習へのモチベーションの保ち方
これができるようになった、という気づきと喜びが大切だと思います。本当にどんな小さいことでもいいのですが。そして、その良くなったことが終わりではないので、「ここを改善したらもっと良くなるな」「これで試合を走ったら楽しみだな」というイメージを持って練習するようにしています。

――駅伝などチームを盛り上げる方法
僕も大学の頃はキャプテンを務め、チームの士気をどう上げていこうかというのは悩みました。やはりまずは自分がしっかりした姿を見せるということが大切だと思います。練習の行動、そして結果で示すというのが僕の方法でした。
あとは練習や記録会での何気ない声がけでもチームのモチベーションは変わってきます。士気を上げるときはマイナス発言をしないというのが大切で、ダメなときでも「全然大丈夫、まだまだ日にちもあるし」など、前向きにプラスの発言を心がけることで、自然とそれが広がっていきます。そうして周りもプラス思考になっていけば、全体の士気は絶対に上がると思います。
まずは自分からそのプラス発信することが大切だと思います。

――小中学生の頃にやっていた練習
中学生の頃は、実家の周りの何もない道を気が向くまま走っていました。
子どもたちにアドバイスするとしたら、まずは楽しくやることが重要だと思います。今の社会は色々な情報があふれていて、どの練習が合うのか、どの練習を選べばいいか選択するのが難しいと思います。でもそうじゃなくて、自分がやっていて「いいな」「楽しいな」と感じる練習を続けることが小中学生には良いんじゃないかな。専門的な練習は高校・大学でいいので、伸び伸びと陸上に向き合うのがシンプルでいいと思います。

――休みのリフレッシュ
コロナ以前は温泉に行くのが一番のリフレッシュでした。それから、サウナと水風呂の温冷交代浴でいわゆる「整え」たりするのも好きです。コロナが落ち着いたら温泉旅行にも行きたいですね。箱根や大分などの温泉街で羽を伸ばしたいです。
コロナ禍でのリフレッシュは、映画を観て自粛疲れをいやしていました。韓国ドラマとか海外の感動系のラブストーリーも観ていましたね(笑)。最近観たものだとミュンヘンの一流ホテルを舞台にしたドイツ映画「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」という作品が特に感動しました。視覚に障がいを持つ人を主人公にした実話を基にした話で、不可能に近いものを可能にする姿に感銘を受けました。

――須賀川の好きなところ
仁井田出身なので、子どもの頃に歩いた通学路ですとか、田んぼに囲まれた景色や空気、実家の周りの何気ない田舎道が、落ち着く気持ちがして好きです。
食べ物では、甘いものが好きなので「くまたぱん」を買ってよく食べていました。

――市民へのメッセージ
須賀川に帰ると「頑張ってね」など温かい言葉をいただいています。色々な人に応援をいただいていますが、地元の声が一番心に響き、活力につながってます。今後は大会結果などで恩返ししていければと思います。これからも温かい応援をお願いします。

――頑張っている子どもたちへ
コロナ禍で思うような練習もなかなかできていないと思うのですが、まずは目の前のことをコツコツ積み重ねていければ、必ず、それが自分にとっても自信にもなってきますし、大会の成果にも結びつくと思います。陸上を楽しみつつ、何事にも挑戦心を持って、一所懸命に頑張ってほしいです。

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【阿部選手プロフィール】

平成9年11月生まれ。仁井田中出身で円谷ランナーズ1期生。学法石川高、明治大経済学部卒業。現在は住友電工陸上競技部に所属する。大学4年時にユニバーシアード男子1万㍍準優勝、箱根駅伝7区で区間新記録を達成した。入社後、関西実業団駅伝4区で区間新記録も樹立している。

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