須賀川・岩瀬から世界へ―― ①相澤晃選手への独自インタビュー(令和3年10月15日掲載)


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(紙面に掲載した内容をそのまま転載しています。ご了承ください)

 スポーツの秋も最盛期を迎えた。今年は当地方のスポーツ文化にとって大きな意味を持つ、象徴的な年であったと言える。春には聖火リレーが須賀川市内を走り、沿道を飾る真っ赤なサルビアの花とマスク姿の市民が見守る中、須賀川・岩瀬などを代表するランナーが情熱の火をつないだ。夏には東京オリンピックで相澤晃選手(23)=旭化成=が男子1万㍍に出場し、世界のトップランナーに果敢に挑む勇姿は多くの感動と未来へのさらなる希望をもたらした。また当地方出身3選手の甲子園出場など、学生たちの活躍もみられた。そして今月17日、円谷幸吉メモリアルマラソン大会が3年ぶりに行われ、258人が己の限界を目指し秋の須賀川路を駆ける。
コロナ禍で「不要不急」な活動の自粛が求められ、スポーツはその必要性が問われた。そうした中で競技者や指導者、スポーツ愛好者らは「スポーツの力を信じたい」という思いを共有し、情熱を静かに燃やし続けた。この信念と継続こそが、須賀川・岩瀬から世界へ挑む選手を育んできた土台となっている。
本特集では当地方出身の代表的なアスリートとして、相澤晃選手、阿部弘輝選手(23)=住友電工=にインタビューを試み、目標や子どもたちへのアドバイスなどを語ってもらった。
2人はともに3年後のパリオリンピックを目標に掲げ、日本選手権や世界陸上を目指している。実現すれば世界の大舞台で同郷対決が叶うこととなる。

スポーツの力を信じ、情熱を燃やし続ける

(令和3年8月5日 ZOOMにてインタビュー)

――東京オリンピックを振り返って
オリンピックに今回初めて出場させていただきましたが、これまで経験したどの大会でもなかったような学びが自分の中にあって、結果はついてこなかったのですが、その分、自分が次のオリンピックに向けて何をやらなければいけないかというのを感じさせられました。
世界のトップは僕より1分以上速く、そもそもタイム差があったので、自分自身、入賞することより、苦戦する中でどれだけ手応えをつかめるかという思いで走っていました。
僕の場合は、オリンピックで勝負したいと思えるようになったのが大学4年の時でした。やはり、オリンピックを目指す期間は長ければ長いほどしっかり準備ができるし、それがとても大切です。2、3年で勝負できるほどオリンピックは甘くないと実感できました。次のオリンピックには3年、さらに次は7年の時間があるので、その時間でどれだけ成長できるかが大切だなと感じました。
現時点での世界との距離は、遠いといえば遠いのですが、全く勝負できないという距離感ではないと思っています。さらに実力を付けてもう一度あの舞台に戻り、勝負したいです。

――オリンピック本番にて
オリンピックでは応援してくれる人、運営に携わっていただいている人、オリンピックのために自粛している人、色々な人の思いを感じました。走っているのは一人なのですが、色々な思いを感じながら走った一万メートルでした。自分の中ではすごく長く感じて、もちろんキツかったからというのもありますが、色々な思いを背負いながら走らなければならないこともあったと思っています。オリンピックは、タイムを追究するだけの記録会とは違います。オリンピックを経験できたことはプラスになったと感じています。

――大会後に寄せられた言葉
家族や身近な人、色々な人から「お疲れさま」というメッセージをいただきました。大会では世界との差を痛感させられましたが、自分の中では後悔なく走り切れました。声をかけてくれた人たちからは、自分の思いをわかってくださっている気持ちが感じられ、すごく嬉しかったです。
トレーナーからも「晃君よく頑張ったね」と言っていただけました。これまでトレーナーやチームメイトに支えていただいてきたので、やっと終わってホッとしたなという気持ちと、(言葉にならない)いろんな思いがあふれてきました。

――オリンピックに向け後押しになった声
地元からのたくさんの声に「こんなにも応援してもらえるものなのか」と、すごく感謝しないといけないと思いました。またオリンピックはそれだけ大きな大会なのだと感じ、もっと頑張らなくてはいけないと感じました。
また、地元からは「『円谷幸吉2世(第2の円谷)』になれるように頑張れ」という言葉をいただきました。円谷選手は自分の中でも偉大な郷土の先輩であり、目標の存在なので、そう言っていただけるとすごく嬉しかったです。
でも、次のオリンピックでは「円谷2世」ではなく、「相澤晃」という唯一無二の存在になれるよう、頑張っていきたいと思っています。

――オリンピック出場後の円谷選手に対する見方
もちろん時代も、出場選手も違いますが、2種目で入賞というのは、とてつもないことだと思います。今の陸上界でマラソンと1万㍍を兼任することはありえないことですが、それを成し遂げた円谷選手は本当にすごい存在だと改めて思いました。
ただ、「自分は自分、円谷選手は円谷選手」と思えたオリンピックでもあり、自分がやりたいことをしっかりこれからやっていきたいと思います。

――大会を終え、次の目標
今シーズンのメインであるオリンピックが終わったので、来期に向けて、まずはニューイヤー駅伝がありますし、その次には日本選手権や世界選手権があるので、そこに向けてしっかり土台作りをし、冬から春、夏にかけて良い走りができるように準備していきたいです。
正直、スピードもスタミナもメンタル面も全部不足していると感じているので、自分なりにしっかりやっていきたいです。全部バランス良くやらないと、どれか一つ抜けていても全く勝負できないので、自分自身の実力をしっかり付けるということを第一に考えてやっていきたいと思います。

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――小学生の頃の自分に声をかけるとしたら
当時の自分は、大会やみんなで集まって走ることは好きでしたが、一人きりで走ることや努力することはあまり好きではなかったです。もしその頃の自分に声をかけるとしたら、「しっかり努力すること」「高い目標を持って競技をすること」の大切さを伝えたいです。

――毎日どれくらい練習していますか。中学生にオススメのトレーニングは
大学生の頃から走る距離が長くなってくると思うのですが、僕は1万㍍やハーフマラソン中心の選手なので、25~35㌔くらいを毎日走っています。
中学時代は体ができていないので、僕自身その頃は1日1回しか走っていませんでした。夜に円谷ランナーズなどで練習するのがほぼメインでした。もちろん中学時代から高い目標を立てて走ることはすごく大切ではあるのですが、ただそこで陸上が嫌いになったら意味がありません。陸上を楽しみながら高い目標を持って練習に取り組んでほしいですね。

――毎日練習を続けるコツ
僕も今でこそ1日全く走らないと落ち着かない感じですが、中学時代は天気が悪かったりすると走らないこともありました。小雨だったら短い時間でも体を動かしたり、よほど天気が悪ければ走らなくてもいいと思いますが、部屋の中で腹筋や背筋を鍛える補強練習をするだけでも全然違います。
でも小中学生のうちは無理にやらなくてもいいと僕は思います。専門的にやらなくてはいけないとか、実業団に入って陸上をしたいというのであれば別ですが、趣味や部活だったら嫌々やらなくてもいいかなと僕は思っています。

――ケガをしているとき
ケガをしている時にモチベーションが下がる時期というのはもちろんあります。でも僕の場合、そんなふうに気持ちが落ちても、「走りたい」と思う気持ちがだんだん出てくるので、そこから頑張ることができます。
ただ、ケガというのはチャンスでもあって、普段は作れない時間を使って足りないところの補強に割くことができます。そういう意味でケガをプラスに考えて取り組むことができればいいと思います。

――本番前、調子が上がらないときの工夫やモチベーションの保ち方
練習というのは普段通りやるのが大切です。僕の中では正直、特別な練習をして調子が上がることはないので、今までやってきた練習の中で一番調子よくできた練習をすればいいのではないかと思います。また「調子が悪い」と自分で思っていると調子は上がってこないので、「調子が上向いているぞ」と自分に言い聞かせて走ることはすごく大切だと思います。

――シューズはどんなふうに決めているか
僕はナイキと契約していて、今はナイキの一番良いシューズを履いています。同じメーカーでも一つ一つ形も特徴も異なります。試合であれば軽くてスピードを出せるシューズ、ジョグの時は鍛えるより練習を継続できる、足に負担の少ないシューズを選んで走っています。高校・大学のときよりシューズへの考えは深まってきていると感じます。

――オリンピックを目指すきっかけなど
東京オリンピックに本当に出たいと思い始めたのが大学4年の頃で、それまでは何となくオリンピックに出られたらいいなという感じでした。でも大学4年の当時は駅伝を通してすごく成長できている時期だったので、次のステップに進むため個人種目であるオリンピックを目指すことが大切だと感じ、目標に掲げるようになりました。
練習に関して言うと、大学の頃は駅伝の練習がメインで、20、30人で同じメニューを行っていました。ですが旭化成ではより少ない人数になり、自分の練習に取り組めるようになったので、スピード練習を増やしたり、トラックを意識した練習に集中できたのは大きかったと感じます。

――休日の過ごし方
映画を観たりするのが好きで、休日は部屋でネットフリックスやユーチューブを観たりする時間もありますし、録画していたドラマを観たり、時間があるときは映画館に行ったりします。僕は結構一人でいる時間が好きなので、自分の時間を大事にしているかなと思います。
映画は洋画・邦画問わず、恋愛映画やジブリ、ディズニー作品など、どんなジャンルでも面白いものを選んで観ています。最近、感動したのが菅田将暉さんと小松菜奈さんが出ていた「糸」という作品で、映画館で泣きながら観ていました(笑)。

――地元に戻ったらやりたいこと
今は東京にいるので、戻って迷惑はかけられませんが、コロナが落ち着いたら帰りたいと思います。地元に戻ったら、藤沼でパークゴルフをやりたいですね(笑)。あとはお世話になった人たちにごあいさつしたいなと思います。

――市民へのメッセージ
須賀川市や長沼から応援してもらえたことは本当に嬉しかったですし、その期待に応えられるようにと臨みました。結果自体はついてこなかったですが、しっかり次の目標、あるいはやりたいことが見つかりました。僕は陸上を楽しむこと、そしてジュニア期の選手が陸上を好きになってもらえることが大切だと思っています。僕の走りを観て「トラック競技に挑戦したい」と思ってもらえる選手になることが目標なので、それに向けてまた頑張りたいです。また、これからも市民の皆さんに応援してもらえるような選手であり続けたいと思います。

――子どもたちへのメッセージ
今、コロナ禍で子どもたちが子どもの時代にだけ体験できる貴重な機会が失われてしまっていると感じます。僕が手助けできることは多くありませんが、僕の走りを観て「みんなで一緒に走りに行こう」など思ってもらえるように、頑張っていければ思っています。
須賀川・岩瀬の子どもたちには、どんどん新しいことをやって、自分の目標を見つけて、頑張ってほしいと思います。

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【相澤選手プロフィール】

平成9年7月生まれ。長沼中出身で円谷ランナーズ1期生。学法石川高、東洋大経済学部卒業。現在は旭化成陸上部に所属する。大学4年時にユニバーシアード男子ハーフマラソン優勝、学生三大駅伝区間新記録樹立。入社後は日本選手権男子1万㍍で日本新記録を達成し、今夏の東京オリンピックに出場した。