火曜コラム(紙面掲載 2021年6月1日)

三浦 純一


ゆでガエルにならないために

 ゆでガエルという言葉があります。カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、普通の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後に茹であがって死んでしまうというお話です。
 さまざま著作の中で比喩として使われいるので、ご存知だと思います。
 日本には1998年に出版された「組織論」という書籍に「ベイトソンのゆでガエル寓話」として紹介されています。
 カエルに例えていますが、人間の心の動きと行動の本質をついた言葉です。
 人間は環境の変化に実は気がついていることが多いのです。うすうす気づいていながら、そのうち何とかなると思って見過ごしていると、重大な事態に陥ってしまうのです。
 私たちはコロナ禍の中で生活して2年になります。
 昨年の今頃は福島県で10人の感染者が出ても驚いていました。そして必死になって感染防御を学び実施していました。
 今はどうでしょう。毎日10人以上の新規感染者が出ても驚きはありません。それに加え、毎日のように亡くなる人が出ていても、驚かなくなりました。
 ゆでガエルと同じで、徐々に数値に慣らされてしまっているのです。
 昨年、国民的人気を誇ったタレントや女優さんが亡くなったときの驚きと悲しみが、薄れていないでしょうか。
 新型コロナウイルスの強い感染力をもつ変異株にも、「何とかなるさ」と思っていませんか。あらためて考えてみましょう。
 新型コロナウイルスの感染は個人の感染防御行動に大きく左右されます。マスクや手指衛生をきちんとしていても、3密の場所に長時間いると感染してしまう可能性が極めて高くなります。
 そして、普通に暮らしている私たちが、不幸にして巨大クラスターの根源になる可能性があるという特徴を持ちます。
 そこで、私たちがゆでガエルにならないための対策を考えてみました。
 まず、新型コロナウイルスに関して、感じたことを紙に書き起こします。自分がしていること、国や自治体がしていることや、してほしいこと、将来の不安など、思いつくまま書いてみるのです。
 それから、家族や職場で書いた内容を話し合う機会を持ってください。題材は何でも良いです。話をしているうちに題材が絞られてきます。
 家族であっても、人それぞれに考えが異なるかも知れません。
 職場ならなおさらです。他人の考えも認めることで、自分の気持ち、心構え、行動を修正、整理してください。
 話し合いで、より良い人間関係を築き、そこで確認された感染防御行動を実践してください。
 コロナ禍の中でひっそりと生活する期間が長くなればなるほど、周囲の人たちとの人間関係が大切になります。
 みなさんが話し合い、信頼性の高い人間関係を築き、新型コロナウイルスからあなた自身と周囲の人たちを守れることを期待します。
 まずは、あなた自身から動いてみましょう。

うつみね診療所 所長

三浦 純一