火曜コラム(紙面掲載 2021年9月14日)

三浦 純一


経験値が役に立たない
 世界で暮らすために

 東日本大震災と原発事故があった10年前頃から、「想定の範囲外」ということばが一般的に使われるようになった。
 通常の概念では予測できなかったことを想定の範囲外と定義したのである。一般の人もその言葉でなんとなく納得してしまうので、便利な言葉として使われてきた。
 しかし、リスク管理の視点からすると、ときおり単純なリスクの見間違いにも想定の範囲外という言葉が使われている。また、政策の過ちに対する政治家のみえすいた言い訳のこともある。
 行政官庁や自治体の職員はもともと、データにもとづいた考え方で、近未来に起こりそうな事を想定し、それを仮説として定義し、さまざまな対策を練ってきた。
 国の官僚は日本国内の未来を予測し、自治体職員は地域の未来を正確に予測しようと日々努力を積み重ねている。
 私たち住民も自分たちのより良い生活のため、身の回りに起こりうるさまざまな事を予測し、事前に対策できるものは対策し、予測できなかった疾病や災害時には病院や自治体を頼ってきた。それが、私たちの日常だった。
 しかしいま、こうした生活の基盤がコロナ禍で崩れつつある。
 理由はひとつだ。新型コロナウイルスは一気に世界中にひろがり、あっというまにパンデミックになってしまった。いままで人類が経験したことのない感染力、致死率の高さ、そして変異株が次々に登場し、その対応、対策はまったく追いつくことができていない。
 人々の命や健康ばかりでなく、政治、経済など広い分野に悪い影響がでている。台風や地震などの災害よりも巨大な災害だと言える。
 まさしくこれこそが想定の範囲外の感染症であり、災害なのだ。
 いままで蓄積してきた経験値が役に立たない爆発的にひろがる新型コロナウイルス。頼みになるのはワクチンと、いま開発中の特効薬たちだ。
 どちらも全ての住民に行き届いているとは言い難く、私たちの健康上の不安、経済的な不安と精神的な圧迫感が続いたままだ。
 しかし、この私たちにも、できることがある。家族のだれかが感染した時、子どもさんが感染した時、または濃厚接触者になった時にみなさんはどのように生活しますか。
 特に子どもさんが感染した時には保護者は休まなければならず、自らが濃厚接触者になったら勤務できない日々が続きます。自宅のゾーニングはどうしますか。食料調達はどうしますか。
 特に夏休みが終って学校が始まり、子どもさんが感染する可能性が高くなっています。だから、みなさんの家庭でも、感染を想定して対策を具体的に練っておいてください。
 私たちが感染することは想定外のことですが、かかった時の事を想定し対策を練っておく事で、コロナ感染を想定内のこととしてください。
 そして、みんなでコロナ禍を上手に乗り切って欲しいと思います。

うつみね診療所 所長

三浦 純一