火曜コラム(紙面掲載 2021年10月19日)

三浦 純一


高齢者は歯が命

 生命がある限り、目の前の食べ物を美味しく食べたいという願望を持っている方が多いと思います。
 テレビを見ていますと、芸能界のタレントさんが芸能人は歯が命と言っています。これは白くて綺麗に揃っている歯が好感度をアップするからだと説明されています。
 それと同じように、「高齢者は歯が命」という言葉がみなさんに当てはまります。
 病院で入院患者さんをみていますと、誤嚥性肺炎と言って、唾液や食べ物を誤って気管の中に吸い込んでしまい、肺炎になる高齢者の方が多いです。
 理由は食べ物を食べる力が弱くなるからです。筋力が低下して食べ物を飲み込む力がなくなると、誤って気管の中に唾液や食べ物を吸い込んでしまいます。
 時にはお正月のお餅のように気管に詰まらせて窒息死してしまう高齢者がいます。予期せぬ死は本人もご家族も周囲のみなさんも、悲しい事件として記憶に残ってしまいますので、何とか予防したいですね。
 それでは食べる力が弱っていく原因はなんでしょうか。
 病院の中で毎日のように嚥下内視鏡検査と言って、食べる力を評価する検査をしていますと、いろんな事がわかってきました。
 まず、食べる力が落ちている患者さんのお口の中を拝見しますと、多くの方が上顎、下顎ともに歯が無かったり、歯がないのに入れ歯を作っていなかったりします。
 高齢者になると歯周病やむし歯で歯を失う機会が多いのですが、その都度丁寧に手入れをして下さい。入れ歯が必要な時には必ず作って下さい。そして、もし合わなくなったら、きちんと調整することが大切です。
 歯がないと、そして上下の歯の噛み合わせが不良だとお肉などタンパク質を多く含む食材を食べなくなります。そしてタンパク質が足りないと確実に筋力が落ちてしまいます。
 十分に歯で噛めていない食事を丸呑みするようになると栄養が吸収されにくくなり、さらに全身の栄養状態が悪くなり、筋力低下が進行します。
 筋力の低下によって、普段の生活で長い距離を歩くことや重いものを持つことが困難になるばかりでなく、食べ物を飲み込む力も弱り、むせってしまい、食べる量が減ってしまいます。
 そして、ますます栄養状態が悪くなり最後には気管の中に誤って食べ物を吸い込んでしまう、誤嚥性肺炎となって救急車で病院に搬送されるという悪循環の中で苦しむことになるのです。
 その悪循環を防ぐ最初の一歩が、信頼できる歯科医院をかかりつけ医として持つことです。歯科医院で歯周病、むし歯の治療や歯のメンテナンスをしていただきましょう。自分の歯や入れ歯をきちんと使えるようにしておくだけで、みなさんの寿命が伸びることが期待されます。
 「高齢者は歯が命」です。かかりつけの歯科医院を定期的に受診してぜひ長生きして下さい。 

うつみね診療所 所長

三浦 純一

うつみね診療所長 元公立岩瀬病院長