火曜コラム(紙面掲載 2024年2月13日)

三浦 純一


福寿草

 冬枯れの田園風景が広がる中、訪問診療医として私は80代半ばの独居高齢者宅を訪れた。玄関先で目を引いたのは、鮮やかに咲く一輪の福寿草。黄色い花弁が太陽の光を反射し、周囲にはこれから咲いてくる蕾たちを従えている。冬の寒さを吹き飛ばすような光景。花の生命力を感じる。
 福寿草の花言葉は「永遠の幸福」だ。独居で頑張る患者さんに幸せが来るように、花たちが励ましている。
 患者さんは歩くことが難しくなり、一人では通院が困難になったため、訪問診療をはじめたばかりだ。家の中に招き入れられ、いつものように診察を始める。患者さんは、最近体調が良くなってきたと笑顔。そばにはケアマネージャーさんが私の訪問時刻に合わせて来てくれていた。「最近はとても元気になりましたよ。なんでも自分でやれるように努力しているので頼もしいです。」
 訪問診療は医師と看護師だけでは成り立たない。特に患者さんが独居高齢者の場合、2週間に一度しか患者さん宅を訪問しない医師は、毎日の生活を基盤とした療養を提供することが困難だ。
 そこで、訪問看護師さんやケアマネージャーさん、ヘルパーさん、そして行政との連携が必要不可欠になる。その点、この地域で頑張る訪問看護師や介護職のみなさんは頼りになる。みなさんが協力して、一人の患者さんにとって快適な療養環境を提供しているからだ。
 孤独と幸福の間で考えること。今回訪問した患者さんのように、一人で静かに暮らす高齢者は少なくない。孤独と戦いながら、日々の生活を送っている。その生活の中にも希望や幸福はある。離れていても自分の家族や友人との温かい交流、地域社会とのつながり、そして、行政、介護従事者や医療従事者によるサポート。これらの支えがあれば、患者さんたちは、これからも辛抱強く健やかに生きていくことができるだろう。
 もともと、私たち医療従事者は、単に病気を治すだけでなく、患者さんの人生に寄り添う存在である。さまざまな病気を持っていても力強く生きることができるようにサポートするのだ。
 訪問診療を通じて、患者さんの生活を支え、希望通りの幸福を手にいれる手助けをしたい。今後も、医療、介護と社会の架け橋となり、独居高齢者さんたち一人ひとりの希望と幸福を支えていく。
 2024年2月、福島県の冬。玄関先にあった福寿草の黄色い花は、私たちに幸福への道筋を考えさせてくれる。それは、孤独と戦いながらも、力強く生きる独居高齢者のみなさんの希望と幸福。そして、医療、介護と社会の力で、誰もが健やかに暮らせる未来への希望と幸福。福寿草の花言葉のように、私たちの幸福が永遠に続くことを願ってやまない。

うつみね診療所 所長

三浦 純一