火曜コラム(紙面掲載 2024年3月13日)

夏奈色ひとみ


銀の花咲く卒業式

 三寒四温という言葉を唱えて、寒暖差の激しい気候を乗りきる今日この頃ですが、去る3月1日、卒業式に出席しました。
 朝、窓を開けたら雪景色、これには少し慌てましたが、天からの花のお祝いと思いました。
 久しぶりの卒業式にあらためて感じたのは、ああ、学び舎というものの空気はやはり素晴らしい、という思いでした。
 背筋が伸びる厳かさとたくさんの人が集うあたたかさに包まれた空間で、卒業生たちの、自分は今ここにいる、ここでやってきた、という誇りが伝わってくるような気がしました。
 先生がいて生徒がいる、その光景は美しいものでした。これが、人間の絆が持つ美しさなのだと感じました。このような思いは私にとって初めてのことでした。
 雪のため、早々に家を出て体育館入りしたのですが、まず音楽部の本番前音合わせの楽器の音色にもう瞬時に感極まり…生演奏と共に恩師に導かれて卒業生一人ひとりが入場する姿に、いろいろあったでしょうけどみんながんばったね、と全員の親のような気持で感極まり…卒業生の名前を呼ばれ「はい」という返事の凛々しさに感極まり…「蛍の光」を卒業生と在校生が一緒に歌ったことに感極まり…卒業生退場では、クラスごとにそれぞれの保護者席の脇を通っていく配慮に感極まり…感染症対策などから引き続き体育館で待機した保護者の元へ担任の先生方がいらしてご挨拶されたことに、多くのご苦労があったことでしょう、と感極まり…たくさん心を動かされたとても佳き日でした。
 また西山尚利福島県議会議長の祝辞「未見の我(みけんのわれ)」というお言葉が胸を打ちました。「未だ出会ったことのない自分」「試練を経て、成長した先にいる新たな自分」という意味です。卒業生、在校生、保護者の皆様の心にも響いたのではないでしょうか。
 経験と感動こそが私たちの財産です。
 子どもたちには、これからの未来、「未見の我」との出会いを楽しみにしながら、様々なことに本気で挑戦し、たくさん心ふるわせてほしいと思います。もちろん、大人である私たちも。

絵本作家

夏奈色ひとみ