火曜コラム(紙面掲載 2024年3月19日)

三浦 純一


「癒しのための小さな時間」

 みなさんは疲れていませんか。
 私たちは日々の忙しさの中で、複雑化した仕事、種々の感染症対策、もつれた人間関係などで自分を見失いがちです。本当は明るく元気に生きたいのに、年齢だけが積み重なっていくように思えることがしばしばです。
 そして、まだまだ消えない感染症のリスク。新型コロナやインフルエンザで苦しむ友人を見ながら、心に疲れが溜まっていませんか。私もみなさんと同じです。
 医師としての日常は訪問診療に奔走することで埋め尽くされています。24時間対応なので休日も休めない時があります。
 年齢的に体力の衰えを感じる場面が多いのですが、そんな私でも心を豊かにしてくれる小さな癒しの時間を見つけることができています。
 訪問診療の合間に、目の前の自然の一コマに目を留め、その美しさをスマホで写真に収めるのです。一瞬を写し取ることでその光景をずっと保存しておくことができます。それと同時に美しいと思った私の心も写真の中に閉じ込めておくことができるのです。
 後で写真を見直すと、撮影した時の私の心の動きが蘇ってきます。そして、その写真を思いのままに編集する。
 さらには、写真の題材を中心としたストーリーを考えて文章として完成させる。その小さな時間が私の至福の時です。
 短い時間でも大きな幸せを感じることができるので、人間にとって趣味がもたらす恩恵はとても大きいのです。
 訪問診療の時に患者さんの自宅付近に咲く小さな花々が目にとまることが多くなりました。蕾の時に撮影し、花開いて綺麗な姿を写し取り、枯れて色褪せた姿も記録しています。時系列で花の写真を並べると、その花の一生を記録している感覚があります。
 また、綺麗な花を、風がやんだ一瞬を逃さずに撮影すると、大きく伸ばしても破綻しない精密な写真を残すことができます。その瞬間が楽しいのです。
 私もみなさんと同じように、趣味に多くの時間を割くことはできていませんが、「癒しのための小さな時間」の大切さを改めて感じています。
 忙しい日常から一時的に離れ、自然の美しさに目を向けることで、心に静けさと新たな活力をもたらせます。
 小さな花々のように、些細ながらも力強い存在が日常の生活に深い影響を与え、幸福感をもたらしてくれるのです。
 私たちの生活には、見過ごされがちな小さな美しさがあふれています。忙しい日々の中でそれらを見つけ出し、一瞬の静けさの中で深呼吸する。
 そんな「癒しのための小さな時間」が、私たち一人一人の心を豊かにし、日々の生活をより意味深いものに変えてくれます。
 読者のみなさんが日常の中に小さな癒しの時間を作り出して、楽しく、より豊かな人生を一緒に歩めることを祈ります。

うつみね診療所 所長

三浦 純一