火曜コラム(紙面掲載 2024年10月16日)

夏奈色ひとみ


香りのささやき

 近頃、かぐわしい香りが鼻をくすぐります。まずはキンモクセイ。その甘い香りは秋を告げてくれる風物詩です。
 この時期は、行く先で車を降りた瞬間や、外を歩いている時にふっと香りを感じ、周りを探してしまいます。植物の中でも、視覚より嗅覚への働きかけに特化しているのがキンモクセイの特徴ではないでしょうか。
 また自宅の庭にカツラの木があり、丸いハート形の葉が紅葉し落葉しているのですが、落ち葉掃きをしていると甘く香ばしい香りがします。
 その香りは綿あめの匂いに似ていると感じます。これはマルトールという成分で砂糖を含む菓子等の製造過程でも生成される成分とのことで頷けます。
 どちらの香りも私にとっては秋を感じる幸せな香りです。
 香りといえばアロマについて学んだことがあるのですが、香りは0・2秒で脳に届くと言われます。ちなみに痛みは0・8秒とのこと。嗅覚は、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の中で唯一、感情や本能に関わる大脳辺縁系に直接伝達されるのだそうです。
 これは嗅覚が生き物にとって重要な役割を担っていて、匂いによって危険を察知したり、生まれたての目や耳が未発達の赤ちゃんが母親の匂いを嗅ぎ分けるなど、生命への影響を瞬時に判断する必要があるからだと言われています。
 さらに大脳辺縁系には記憶に関連する「海馬」という器官があります。ふとした匂いを感じた時、過去の情景が蘇ってきたりする経験があるのではないでしょうか?
 これはフランスの作家マルセル・プルーストがこの事象を著書の中で表したことから、プルースト効果と呼ばれているそうです。
 私はこの時期漂う野焼きの煙の匂いに、北国の地で幼子と暮らしたあの部屋の窓から見た情景を思い浮かべます。
 日々の生活の中でも、気持ちをリラックスさせたり、ストレスや身体の凝りを和らげたい時などに、植物から抽出したエッセンシャルオイルを活用しています。
 ちなみに香りは「サイレントランゲージ(沈黙の言葉)とも言われ、古来様々な神事などでも使われてきたとのこと。
 私たちの暮らしに心地よいアロマなど香りを取り入れることで、植物のささやきがそっと背中を押してくれるかもしれませんね。

絵本作家

夏奈色ひとみ

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