火曜コラム(紙面掲載 2025年3月18日)

夏奈色ひとみ


真夏のハクチョウ

 (ああ、冬ってにぎやかな季節なんだ…)今年ふとあらためてそう思いました。
 それは、渡り鳥ハクチョウが冬の期間こちらにいてくれるから。飛来地に行くと、朝、エサ場に飛んで行くハクチョウたちを目にすることができ、その姿に壮大で清々しい美しさを感じます。
 そして今年もそろそろシベリア地方へ帰る時期になりました。
 その運命の出会いは昨年の9月13日、まだまだ暑さが続く日のことでした。
 日本の古き良き風景を思わせるのどかな川沿いを歩いていた私は、景色に中にそっと佇む白い鳥を見つけました。
 (えっ、ハクチョウ?)はじめ我が目を疑い白いダイサギかと思ったのですがどう見てもハクチョウでした。
 たった1羽で川べりに腰を下ろすそのハクチョウは、とても静かでひたむきな空気をまとっていました。
 この時期にハクチョウがいることに驚き感動した私は、その足ですぐに最寄りの日本野鳥の会会員のお宅を訪問しお話を聞きました。
 突然の訪問にもかかわらず快くご対応くださったお話によれば、「この辺りは高圧線などが多く、恐らく羽を傷めて飛べなくなりもう2年目になる、見守っている」とのことでした。
 それからというもの、何度も訪れて見るハクチョウはいつでも穏やかで元気な様子です。近所で暮らす方々からも優しく見守られ、その地に棲むカルガモやカワセミ、セキレイやサギにも癒されているのでしょう。
 家族や仲間たちは遠いシベリアにいて、たった1羽でそこにいるハクチョウ。全てを受け入れているような柔和な横顔を見ていると、もしかしたら可哀想などと思うのは見当違いで、自らの意思でここにいる可能性も0ではないのでは…そんなふうにも思えました。
 私は、ハクチョウがそこにいるだけで勇気をもらえ感動します。自分の存在が見る人に勇気や感動を与えることができる…なんて素晴らしい今生でしょう。
 そして、私はこうも思います。私たち一人ひとりもまた、今ここにいるだけできっと誰かの支えや励ましになっている、だから自分を大切にしよう…と。

絵本作家

夏奈色ひとみ

絵本作家