火曜コラム(紙面掲載 2025年7月15日)

夏奈色ひとみ


しろくまピース

 最近、感動したことはなんですか?
 先日テレビで、愛媛県立とべ動物園にいるピースというホッキョクグマの特集を見ました。国内で初めて人工飼育に成功したピースは、1999年12月2日、680㌘で産声をあげました。
 その日担当していた飼育員高市さんは休日で、連絡を受け慌てて動物園に駆けつけました。ホッキョクグマは通常、出産して初めて妊娠していたことが分かるのだそうです。 
 母親のバリーバは出産後神経質になり子育ては危険と判断、人工飼育に切り替えられました。
 国内で成功例がないホッキョクグマの飼育、全てが手さぐりの中で、高市飼育員は絶対に育ててやるという決意のもと、母親ならどうするだろうと考え愛情を注ぎ、夜は家に連れ帰って飼育した様子がカメラに収められています。高市さん家族とピースが布団で戯れる映像にはくぎ付けになりました。
 3時間おきのミルク、感染症への注意、本来マイナス30度の地で暮らすホッキョクグマに冬場でも部屋の窓を開けての就寝、遠出しない…などピースのための生活を送り、生後3カ月が過ぎピースを動物園に置いて帰るようにすると、高市さんの後を追って一晩中泣き叫び、翌日は声を枯らしていたと言います。
 またピースは3歳でてんかんの病気を発症、5歳の時にプールで泳いでいて発作が起こり、そこに居合わせた高市さんが瞬時に駆けつけ水から顔を持ち上げ呼吸を確保して助けた様子もカメラに収められています。
 そうなる以前に、高市さんはピースが溺れる夢を見て助けるシミュレーションをしていたのでとっさに対応できたのだそうです。深い絆が導いた奇跡だと思います。
 ピースは自分の子どもであり、自分を成長させてくれる母親であり、まっ白な美しい毛並みの姿に癒される恋人でもある、と話す高市さん。人間とホッキョクグマの絆に感動して、日々全国から多くの人が来訪し、中には、横浜から移住した方もいるようです。
 高市飼育員の次の言葉が印象的でした。「本当にこれがピースの幸せなのか、ピースを見て判断します。人間がこうしたら幸せになれるだろうと押し付ける必要はないのです」。
 私は、高市さんとピースの姿から深い感動と学びを得ました。
 現在25歳で高齢になったピース、ますます幸せに元気に過ごしてほしいと願います。

絵本作家

夏奈色ひとみ

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