火曜コラム(紙面掲載 2023年2月28日)

夏奈色ひとみ


木から生き物から教わること

 今回より火曜コラムに携わらせていただくことになりました夏奈色ひとみです。長沼地区出身で、桙衝神社がある亀居山の麓の自然の中で生まれ育ちました。これからどうぞよろしくお願いいたします。
 私が、昨年出版した絵本「ぼくのしあわせ」は、私が高校生か大学生だった頃に見た夢を基に考えた、木が主人公のストーリーです。
 夢の中の丘の上で私の左隣りに立つ一本の木・・・私たちは並んで同じ方向を見ていました。そして、言葉を発することなく、お互いに思いを分かり合えていました。
 夢から覚めた時に、「ああ、やっぱり・・・分かり合えるんだ」という喜びが沸き上がりました。そんな「木」が大好きな私が、最近目にしたとても興味深い記事があります。
 木や植物は、周りの植物や昆虫と何らかの情報のやり取りを行っているという内容のものです。植物は、動けないからこそ周囲のあらゆる環境の変化を動物以上に敏感に感じ取って反応している可能性がある、と。
 イスラエルのワイツマン研究所のタミル・クラインさんたちの研究で、植物の世界では、森の地下で木と木をつなぐ巨大な菌のネットワークがあり、光合成で得た養分などが時に他の木にシェアされ助けあっていることが遺伝子解析技術によって分かったというのです。
 生き物たちの世界では、私たち人間の音声言語でのコミュニケーションは少数派であり、この地球上では人間の耳には聞こえない「メッセージを伝える物質」による膨大なコミュニケーションが存在しているとのこと。
 栄養を取り合って生存競争をしていると思われていた植物は、命をつなぐために支え合って生きている一面があり、私たち人間の想像を超えたつながりがあることが分かってきたのです。
 私たち人間も自然の一部です。命は個で存在しているのではない、多くの生きものは自分以外の周囲の生きものたちによって支えられているということを忘れたくはありません。
 個を超えた、種をこえた生きもの同士の複雑なつながり、助け合うように生きる見えないネットワーク、その深遠な仕組みがこれからさらに解明されていくことによって、私たち人間は生かされていることの本質に気づくことになるかもしれません。
 最後に、植物学者・田中修さんの著書より、私の好きな一文です。
 〈もし植物たちが話せれば、「自分たちは動き回ることができないのではなく、動き回る必要がないのだ」というはずです〉
 ぜひ、身近な木に目を向けてみてくださいね。

絵本作家

夏奈色ひとみ