火曜コラム(紙面掲載 2024年5月21日)

夏奈色ひとみ


キビタキとの絆

 各地でキビタキのさえずりが聞こえる時期になりました。キビタキは、4月頃に東南アジア方面から飛来する夏鳥です。
 そして県の鳥としてお馴染みですが昭和40年5月10日、公募により選ばれたとのこと。オスの姿は喉元からお腹にかけて鮮やかなオレンジ色から黄色で、羽の色の黒とのコントラストが美しく、鳴き声は高く澄んだ良く通る美しい声で、県の鳥に相応しいと思います。
 全国の都道府県の鳥を調べたところ、ライチョウやハクチョウ、オシドリ、ヒバリ、ウグイスなどは同じ県がありましたが、キビタキは福島県だけです。
 私はここ数年、野鳥を見るのが趣味で、よく近くの公園や森などを散策するのですが、5月の初め、思いがけずに近くの公園でキビタキに会うことができました。
 あの楽器のピッコロにも似ていると思うような鳴き声がしたので近づくと、木の枝でさえずる色鮮やかなキビタキの姿がありました。
 この公園へようこそ!その時の私は直前に落ち込むことがあったのですが、それを励ますように姿を見せ、さえずりを聴かせてくれました。その鳴き声も姿も、その時の私にはまるで太陽のようで、自己嫌悪に陥っていた私の気持ちがかなり癒されたのでした。
 そんな折キビタキ船長のお話を知りました。漫画家岩本久則さんの著書「寄鳥見鳥(小学館)」に記載があります。
 昭和29年9月25日、台風による青函連絡船洞爺丸の惨事があった日の夜、たくさんのキビタキが子どもたちを連れて北海道から津軽海峡を南下中でした。
 その時イカ漁をしていた田畑船長のイカ釣り漁船も、他の漁船と同じく漁を諦めて集魚灯を消し荒れる海の中を母港に向かっていると、微かに聞き覚えのある小鳥の鳴き声を耳にしました。
 目を凝らすとおそらく数千のキビタキが海の上を飛び、船に止まったり波にさらわれたりもしていました。
 船長は迷うことなくキビタキの目印となるように集魚灯を点け、船のスピードが落ち危険な状態になりながらもたくさんのキビタキを船に乗せて下北半島にたどり着き、陸に飛び立つ姿を最後の一羽まで見届けたということです。
 キビタキと人間との絆は、もしかしたらこの時からさらに強くなり、受け継がれているのかもしれません。私を励ましてくれたキビタキもその子孫なのかもしれません。
 先日、県内で開催された邦楽の合奏講習会にいらした他県の方々もキビタキを見たとお喜びでした。福島県の鳥キビタキと、今が出会いのチャンスです。

絵本作家

夏奈色ひとみ

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