追憶の春の夜
「こんばんはマスター。入口の看板に書いてあった春のカクテルを何か一杯頂けますか?」
「いらっしゃいませ、どうぞこちらへお座り下さい。それでは、今季のお勧めサクラ・スプモーニをお出ししましょう。」
「スプモーニっていうと、やはり飲みやすい感じですか?」
「かなり飲みやすい味に仕上げました。バーテンダーの思う理想形に近いカクテルですね。」
「それは楽しみですね。」
「失礼します、どうぞ召し上がって下さい。サクラ・スプモーニです。」
「これ凄く美味しいですね。桜の香りもちゃんと感じます。」
「今回は爽やかな味と飲みやすさを意識して再現しやすいレシピにしてみました。」
「淡いピンク色も綺麗ですね。」
「桜リキュールも意外と種類あるんですが、この銘柄が相性良かったんです。」
「そういえばマスター。僕も今月末に、いよいよ職場を異動になるんです。」
「そうですか…。寂しくなりますね。」
「マスターには色々とお酒を教えてもらっちゃって。この店でも知り合いが増えて、本当に楽しかったです。」
「こちらこそですよ。沢山足を運んで頂いて有難うございました。これからも変わらず仕事を続けていつでもお待ちしてますから、気が向いたらまた遊びにいらして下さいね。」
「有難うございます。またお邪魔させて下さい。今度は友達と旅行で来ます。」
爽やかな春の風と共に、出会いと別れの季節は今年もまた訪れます。新たな門出を祝う寂しさには中々慣れないものですね。
そんな追憶の交差する春の夜には、その時でしか味わえない一杯があるはずです。美味しい料理とお酒を通して、特別な時間を分かち合ってみては如何でしょうか。