火曜コラム(紙面掲載 2023年10月11日)

夏奈色ひとみ


桙衝神社の太鼓 獅子によせて

 去る10月1日、桙衝神社で太鼓獅子のお祭りが開かれました。
 奈良時代から続く伝統と言われ、旧歴の閏年に開催されるお祭りで、須賀川市の無形民俗文化財に指定されています。
 前回はコロナ禍で見送られ、平成30年以来、今年が待ちに待った開催。当日は朝から雨模様でしたが、獅子舞が始まる午後には雨が上がり、天の祝福と思えるような秋晴れになりました。
 なんと言っても、天狗下駄とも言われる高い一本歯下駄、もしくは二本歯の下駄を履いた天狗さまの様相、胴幕の中へ大人数で入り躍動する百足獅子の舞は、それはもう厳かで畏れ多く、一度目にしたらその人の心を捉えて離しません。
 そして、地区の子どもたちは、伝統衣装とお化粧をまとい、ひと月ほど前から練習してきた踊りと太鼓のお囃子を、笛の音色に合わせて誇らしげな様子で奏でます。
 私は小学生の頃、弟が太鼓の練習に行くのに付いて行き、その様子をうらやましく見ていました。元来男性が担うお祭りであったため、当時は今と違って女子は太鼓に参加しませんでした。
 私は子どもながらも、その笛と太鼓が奏でる音色に酔いしれました。きっと、自分の中のその音色に共鳴するものが、自分を遥かに超えて繋がり続ける命の源に刻まれ、それを受け継いでいるのでしょう。
 桙衝神社は、亀居山にあり、鹿島さまが別名の「建御槌命と日本武尊」が祀られ、延喜式神名帳にも記載されている山全体に「抱かれる」ような由緒あるお社です。本殿は、福島県指定文化財です。
 何より、その境内に足を踏み入れると、何も知らない人でも、歴史ある本当の美の荘厳さと貴さ、山全体にかかるようなあたたかさに触れることができると思います。私は個人的に、そこに自分の本来の大いなる母を感じます。
 鳥居の手前両側では、見事な樫の木が私たちをお迎えしてくれます。そして階段を上がり社殿を拝む左側には、天に伸びるように枝を広げた背の高い樫の木が、いつも必ずそこに佇んでいます。私の絵本「ぼくのしあわせ」を感じられる場所です。
 このような神社が、私たちの住む町、須賀川市の長沼地区にあることは、なんという誇りでしょう。ぜひ、参拝されてみてください。また、お祭り開催時には太鼓獅子舞のあの空気をぜひ体感してほしいと思います。

絵本作家

夏奈色ひとみ