火曜コラム(紙面掲載 2023年11月14日)

夏奈色ひとみ


 近所の並木道のモミジバフウが綺麗に紅葉し落葉し始めています。
 毎秋、その紅葉の鮮やかな美しさに見惚れているのですが、並木は木によって色づきに時間差があることが一目瞭然で、特に、ある一時だけの緑と黄と赤の色味が混在する葉のグラデーションはひときわ目を惹きます。
 この季節、葉の色づく様は本当に美しく、年々良さを実感します。
 ところで皆様は、春と秋のどちらがお好きですか?
 冬の寒さが和らぎ芽吹く木々や花々に周りの世界が明るくなり幸せを感じる春、夏の暑さが落ち着き爽やかな風と紅葉、虫の声に癒しを感じる秋、どちらも良さがあり風情がありますね。
 「はるとあき(小学館)」という、季節のはるとあきがお互い手紙を出し合い交流する心温まる絵本もあります。
 昔から、春と秋のどちらが優れているかという議論「春秋優劣論」があり、万葉集や源氏物語などにも登場しているようです。
 源氏物語に登場する秋好中宮(秋の木々や花々をあしらった庭がある秋の町に住む)と、紫の上(春の木々や花々をあしらった庭がある春の町に住む)が、それぞれ自分の住む庭の季節の良さを和歌にして送り合う様は、敵対する相手への挑戦状にも取れますが、才女同士の風流な掛け合いにも取れます。
 11月に入っても、季節外れの暖かさが続き、全国の各地点で夏日が観測されました。温暖化、気候変動の時代を肌で感じます。
 そして先日のニュースで、日本の風情ある四季が、二季に近づいているとの指摘がありました。春と秋が短くなり、ほぼ夏と冬になるというのです。今年の5月からの猛暑も前述の秋の夏日も、確かにそれが懸念される現象です。
 島国日本の四季は、本来、海外のそれよりも違いがはっきりしていてほぼ3か月ごとに移り変わり、それぞれの季節の自然の美しさや趣が古より人々に愛され歌にも詠まれてきましたが、春や秋が感じられなくなるとしたら・・・末恐ろしい気がいたします。
 私の友人が口にする言葉があります。
 「桜は、春より秋がいい」
 初めは、あまのじゃくなことを言っているのかと思いましたが、最近、桜の紅葉の美しさを実感し、友人の言葉にも頷ける自分がいます。桜紅葉(さくらもみじ)という言葉もありますね。
 古よりある「春秋優劣論」やこの友人の言葉が、どうかこの先ずっと体感できますように。

絵本作家

夏奈色ひとみ