火曜コラム(紙面掲載 2024年1月30日)

高橋 亜純


甘い贈りもの

 冷たい風がパリンと音をたてて割れるような休日、小包が届きました。包みを開けると「よい年を重ねてください」と書かれたメッセージと梅の花の意匠をあしらった菓子箱に並んだ羊羹。以前、遠方に住む友人とお茶やお酒と甘いもののペアリングの話で盛り上がったことがあります。それ以来、だいたいこの時季になると滅多に食べる機会に巡り合わないものを贈り合うように。
 とはいえ、ひとつふたつと買う団子や饅頭のように、ひと棹買ってしまおうとはならない羊羹。それに年頃になって、華やかさに欠け、どこを食べても甘くむっちりとまるで砂糖の塊のようで久しく手にすることはなかったのです。ましてや、こども時分は羊羹でなく、「ういろう」。恵方巻きは、ういろうという友人もいたほど馴染み深いものでしたが、私には苦手なもので・・どうにも及び腰になっていたのです。
 羊羹との大きな違いは、原材料。ういろうは、米粉やわらび粉を主原料として蒸した和菓子なのに対し、羊羹は小豆を主原料として寒天で固めた和菓子です。
 「ういろう」はさておき、羊羹に何故「羊」の字が入っているのか、考えたこともありませんでした。なんでも羊羹は、中国の料理「羊の羹(あつもの)=熱い汁物」が原形だそう。鎌倉から室町時代に中国に留学した禅僧が点心(軽食)として日本に伝えたとあります。そもそもこの時代、羊はいなかったはずですし、当時の日本は仏教一色で禅宗では肉食を禁じられていました。なので、精進料理として小豆や小麦粉、葛粉などの植物性の材料を使って羊肉に見立てて作られました。これが冷めて煮凝りになる様が日本の羊羹の始まりと言われるのです。それが時代とともに甘さが加わりやがて武家や貴族社会では、おもてなし料理の品書きにも取り入れられるように。庶民にとっては、茶菓子の王座なわけです。庶民の甘いものといえば、甘葛、蜂蜜に水飴、さつま芋に干した果実。砂糖は高嶺の花でした。今は低糖嗜好。甘いものの上に塩がつくのですが、むかしは甘ければ甘いほど喜ばれたのです。
 さて窓越しにやわらかく冬の陽射しが差し込む午後の時間。珈琲を淹れ、羊羹を切り分け、白磁の器に一切れ。なんでも羊羹は約2・4㌢の厚さに切るといいとか。重厚で漆黒をまとった黒の風格。
 濡らした黒文字で切った羊羹を口に運ぶと甘さが豊かに膨らんでいきます。少し甘く、少し硬く、後味のよい羊羹と絶妙なカップリングの珈琲は、ほんのり疲れた体に染み入るほど美味しく感じられました。
 来年は何かなぁと、一年後の今ごろ包みが届いたら小躍りする自分を想像してしまいます。
 お互いの健康を祈って、寒い冬ももうひとふんばりです。

風流のはじめ館

高橋 亜純