火曜コラム(紙面掲載 2024年6月11日)

野木 卓


バノックバーン

「こんばんはマスター。」
 「いらっしゃいませ、雨の中ありがとうございます。」
 「ジメジメして嫌になるね。何かスッキリするの頂戴。」
 「かしこまりました。では、トマトジュースを使用しても宜しいですか?」
 「トマト系好きだよ、それでお願い。」
 「では一杯目はジンと合わせまして、ブラッディ・サムにしましょう。レモン入りでスッキリしますよ、どうぞ。」
 「これはゴクゴク飲めちゃうね。トマト好きには有り難いよ。」
 「これからの季節、どんどん美味しく感じますね。お通しのピクルス等も合わせて召し上がって下さい。」
 「トマトジュースのカクテルって意外と少ないよね。レッド・アイとか…。」
 「そうですね。トマトは味や風味に個性がありますから沢山の材料を使うレシピには向かないんですよ。」
 「トマト系で珍しいカクテルはある?」
 「バノックバーンというカクテルがあります。スコッチとトマトジュースを半分ずつでシェイクしたものです。歴史的には1314年にスコットランドが独立を賭けて、バノックバーンの地でイングランドの侵略軍と交戦するんです。スコットランドはこの戦いに圧勝し、その地に残ったのはイングランド兵の死体の山だったそうです。イングランド人の血の赤とスコットランド魂の組み合わせという、なんとも悪趣味なネーミング。それがバノックバーンです。」
 「それは凄いネーミングだね。でも是非とも飲んでみたいから作ってくれる?」
 世界には奇抜なネーミングのカクテルが沢山存在します。興味のある方は映画ブレイブハートを観ながらバノックバーンを味わってみてはいかがでしょうか。

バーテンダー

野木 卓

バーテンダー Barアンリマスター