火曜コラム(紙面掲載 2026年3月24日)

沢田 隆志・はな夫妻


大阪っぽい出来事

 先日、実家に帰るため、大阪で電車に乗っていたときのことだ。私は座って本を読んでいた。その40分程の間は小説を楽しもうと思っていた。
 ところが、左隣に座っていた若い女性の動きが、どうしても気になった。その人は座りながら、つま先を不規則に上げ下げしていた。本を持つ手を少し上げることで、つま先自体は視界から消すことが出来たが、女性はスカートをはいていたので、ふくらはぎの筋肉が収縮するのが、どうしても私の間接視野に入ってくる。そのため、小説に集中できなかった。
 「どうせ動くなら一定のリズムを刻んでほしいな」とか、考えても仕方ないことが頭の中をぐるぐるまわった。それでも、せっかく座れたし、視野を極限まで文字に集中させて、読書を続けた。
 そんなふうに自分の中で葛藤をしていると電車が駅に止まり、ひとりのお年寄りの女性が乗ってきた。私が座っていたのは優先席だった。
 左隣の女性の方が明らかに私より若いのだから、あなたが席譲りなよと思ったが、立ち上がる素振りが全くなかったので、私が「どうぞ」と席を譲った。自分としては優先席なのだから当たり前の事をしたつもりだ。
 するとそのお年寄りの女性は「この兄ちゃん、ええ人やぁ!」と車両全体に響き渡る大きな声で言った。周りにいた乗客の人たちが一斉にこちらを見たような気がして、私は恥ずかしく、どういう顔をしたらいいか分からなかった。
 車両を移ろうかとも思ったが、それもなんか気まずく、結局そのままふたりの女性の前に立った。若い女性は引き続き不規則につま先を上下させていた。
 そこから約30分なんとも言えない気持ちのまま立ち続け、実家の最寄り駅で電車を降りようとすると、女性ふたりとも同じ駅だった。お年寄りの方の女性がホーム中に響く声で「兄ちゃんありがとう!」と言ってきたが、心の中で「頼むから黙ってくれ」と思った。
 ふたりに対してはモヤモヤしたが、これぞ大阪や!と感じる出来事だった。

GALATA COFFEE

沢田 隆志・はな夫妻

GALATA COFFEE代表 ウルトラFMパーソナリティ

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