火曜コラム(紙面掲載 2022年5月10日)


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公立岩瀬病院名誉院長 三浦 純一

石鹸での手洗いを見直そう

 石鹸での手洗いを忘れていませんか。
 これからの季節、少しずつ暑い日が増えて、同時に食中毒やウイルス性腸炎が増えてきます。そして、食材やお弁当の取り扱いが大切な時期になってきました。
 私たちは長く続くコロナ禍の生活でアルコールによる手指消毒に慣れています。
 コロナ禍の当初にはほとんど手に入らなかったアルコールが十分に、しかも安価に手に入るようになりました。すなわち、場所と時間を選ばずにアルコールでの手指消毒ができるようになりました。
 そのために不都合なことが起き始めています。
 コロナ禍で忙しい私たちは、感染防御目的の手指消毒をアルコールだけに任せてしまうことが多くなったのです。そして、アルコールと同じように効果がある石鹸での手洗いの機会が少なくなっています。
 それで済んでいれば良いのですが、ウイルスなどの病原体の中にはアルコールで消毒できないものがあります。これを忘れてはいけません。
 アルコールで消毒できない病原体の代表的なものがノロウイルスです。
 ノロウイルスは一度に大勢の人に感染してしまうことが知られています。そして、このウイルスは新型コロナウイルスとは種類が異なり、その構造上、コロナウイルスのように外側にエンペロープというウイルス本体を包む殻のような構造物がありません。
 アルコールはこのエンベロープを破壊することで、ウイルスを死滅させる効果を発揮します。
 したがってアルコールでは、このエンペロープのないノロウイルスを消毒することができません。効かないのです。
 一方で、ノロウイルスの消毒薬はご存知の通り、次亜塩素酸ナトリウムです。これはノロウイルスを死滅させることができます。しかし、残念なことに次亜塩素酸ナトリウムは私たちの皮膚には刺激が強すぎて、肌荒れを起こしてしてしまうので、手指消毒には不向きです。
 ですから、食事の前などに私たちの手指を、しっかりとウイルスや細菌がない状態にするためには、石鹸による手洗いが必要になるのです。
 もうひとつ、臨床現場でのお話があります。
 現在はそれぞれの大きな病院で、発熱の患者さんを専門に診察できる外来を設置しています。その外来に、胃腸症状を呈して受診する患者さんが少し増えてきました。
 そして、腸炎と診断された患者さんに聞きますと、消毒用のアルコールが簡単に手に入るようになってから、あまり石鹸による手洗いはしなくなったと答えることが多いのです。
 少しもったいないですね。
 アルコール消毒が効かない病原体があると分かっていても、石鹸での手洗いをしなければ、結果として感染症、すなわち胃腸炎になってしまうことがあります。
 みなさんで石鹸による手洗いをもう一度見直して、ぜひ職場や生活の中でこまめに実践してください。